プライベートウォール

1.どのようなプライベートウォールを作るのか?

 スポーツクライミングがオリンピック種目になり、大変ポピュラーなスポーツになった。日本各地にボルダリングジムが建ち、練習場所が劇的に増えた。

 一時期よりもボルダリングジムが増えたので、練習場所に困ることは少なくなったかもしれないが地方の町には最も近い練習施設まで片道1時間かかる方もいらっしゃるかもしれない。

 私の知る地方の町、現在住んでいる宮崎県では人口が10万人以上の町であればだいたい1つ以上はボルダリングジムができてきた。10年前だと県内に1つの民間のボルダリングジムしかなかった時期もあり、片道1時間半かけて通っている方もいらっしゃった。毎週2回、往復3時間の自動車の運転は大変なことで、時間と経費の負担も大きかったと思う。そのような負担は少なくなったとはいえ、宮崎県でも一番身近なボルダリングジムまで片道30分以上かかるようなところは、少なからず存在する。

 全国にもまだボルダリングジムから遠くて不便と思っているクライミング愛好者もいらっしゃるのではないかと推測する。そういう方で、マイホームのガレージ、倉庫、屋根裏、庭などにスペースがあり、プライベートウォールを建てたいと考えている方もいらっしゃるのではないかと思う。

 仕事柄、ホールドやハリボテの通信販売をやっているのだが、毎日のように注文を頂く。この頃は、住所が全くの匿名で取引できるシステムができて、以前ほど分からなくなったのだが、全国津々浦々からご注文を頂いている。北は北海道から南は沖縄まで、全ての都道府県からご注文を頂いた。離島からも注文を頂いて、こんな離島でも(言い方はちょっと失礼で申し訳ありません)クライミングをやっている方がいらっしゃるんだとビックリすることもしばしばです。

 ただし、クライミング用のプライベートウォールの建築方法について詳しく解説したウェブページはないと思う。非常に特殊なものだ。私も、15年ほど前に見よう見まねでクライミングウォールを自作してみた。

 実際のところ、日曜大工レベルでもクライミングウォールの建築は難しくはないと思う。プロの大工さんであれば、簡単な部類の工事だと思う。

 ただ、クライミングウォールの独特の問題や作り方のコツがあるので、その辺も含めて詳しい解説のページを作りたいと思いました。

 なお、注意しておきますが、私は建築の専門家ではありません。建設、建築の資格等は全く持ちません。日本には、建築基準法、消防法など色々な法律がありまして、それらは大変複雑です。素人がその法律をすぐに理解できるほど簡単ではありません。

 この場所には不燃材の材料が必要とか、避難経路を確保するために1.6m以上離さないといけないなどケースバイケースで色々な規則があったりします。それらは、建築の素人である私にすべて解説は不可能です。新築で住宅を建てたり、店舗を改造してクライミングウォールを作られる際は、事前に専門家、例えば一級建築士などにアドバイスを求めましょう。

 それらの法律、規制の確認を怠るとクライミングウォールの建築をしたのはいいけれど、法律違反で取り壊さないといけなくなる(あまりないと思うけど)などの不利益をこうむる場合があります。その辺の法律問題は複雑なので私に苦情を言われても、何とも言いようがありません。

 あと一つの問題は、安全面です。

クライミングは危険なスポーツです。高いところに登る以上、ケガする可能性は絶対にあります。ケガは死を含む重大な問題を引き起こす可能性があります。

 ロープを使う場合は、必ず専門家に意見を求め、安全対策は十分施してください。支点などは二重にバックアップをとるなど安全対策を強化しましょう。

 ボルダリングの場合は、下にウレタンのマットを敷くなど、安全対策をしてください。またウレタンがヘタってきたときに備えて、ウレタンの下にもバックアップ用に木製パネルを入れておくなど安全対策をしましょう。なお、それらの安全対策を怠るとかかとの骨を砕いて大けがをするなど重大な事故が発生します。

 クライミングの安全対策については、完璧なものは存在しないと思いますので、二重三重に安全対策を施し、自己責任でクライミングを楽しまれることを望みます。

 壁の施工中のケガ

素人がクライミングウォールを作る際にケガをすることがあります。

私もインパクトドライバーで左手を突き刺したり、ハンマーで左指をたたいてケガをしたりしたことは何度もあります。幸い小さなケガで済んでいますが、丸ノコなどは大変危険です。自分の指を万が一でも切り落としてしまうと、たぶんそれ以降は満足にクライミングを楽しめなくなります。

 そのような不幸な事故は、私も望んでおりませんので、とにかく安全第一で工事をされることを望みます。また、不安があるなら少々お金はかかりますがプロの大工さんに工事を頼みましょう。

2.なぜプライベートウォールが必要かを明確にしよう

 なぜプライベートウォールが必要かをしっかり考えましょう。というのは、プライベートウォールを作ったけど、作った時点で満足してしまって、後は全く利用しなかった。という例が意外なほど多いのです。後に、家族の洗濯物の物干し場となったプライベートウォールの例も知っていますし、邪魔になったプライベートウォールに奥さんから「邪魔だから撤去して」と言われて泣く泣く撤去した事例も知っています。

 プライベートウォールを作るには、コンパネ、木材、パイプ類、工具、ホールド、マットなどかなりの投資が必要です。いくらくらい費用がかかるかは、広さ、高さなどによりかなり幅がありますが、経験上だと20~30万円くらいはかかるかなと思います。高めのホールドを買えばホールドだけで10~20万円くらいは、あっという間に使ってしまいます。

 それらの物品を買ったとして、プライベートウォールを活用しなかったならば、近所のボルダリングジムの年間パスを1~2年分は買えたのではないでしょうか。大変勿体ない話になってしまいます。

 せっかく作ったプライベートウォールを無用の長物にしないために、作った後の運用面での工夫も必要です。

運用面での工夫

 商業用のボルダリングジムでは、様々なホールドに加えて、多種多彩な課題が設定されているのが普通です。近年ではルートセッターと呼ばれるプロの課題設定屋さんが存在し、各ボルダリングジムに定期的に課題の作り替えの仕事をしている場合があります。ルートセッターの一部には、国際的なコンペ(クライミングの大会)で上位入賞した実力者もおり、彼らの作った課題は素人が作った課題より秀逸で面白い場合がほとんどです。素人では思いつかないような奇抜なムーヴや考えさせる課題を作ることができます。

 自分で作ったプライベートウォールでは、プロのルートセッターを呼ぶことは基本的にはないでしょう。とてもお金持ちでプライベートウォールにプロのルートセッターを呼ぶ経費も惜しくないというのであれば、話は別になります。しかし、コンペで上位に入るような有名なルートセッターだと課題セット料金が1日あたり2~3万円程度が相場でありまして、国際大会で優勝するような一流のセッターだと1日の課題セット料が5万円みたいなこともあるでしょう。この辺の相場はピンキリですが、普通のプライベートウォールでプロのルートセッターに課題づくりの依頼が簡単にできるケースは稀だと思います。

 自分でルートセットをすることが実際には多いのではないでしょうか。その場合、どうしても課題が偏って面白くなくなってしまう場合があります。課題のセットというのは、芸術作品に似ていると思います。

 課題の作風は、人それぞれです。それらは、絵を描けば人それぞれの描き方があるように、課題の作り方も人それぞれに個性がでます。コンペ上位に入るような実力者でもつまらない課題しか作れない人も普通にいますが、そんなに実力がないけれど課題作りがやたら上手い人も存在します。

 基本的には、実力がある人ほど高い難易度の課題を作れて有利です。これは断言できます。例えば、外の岩場で三段の課題を登れる人は二段、初段というような難しい課題のセットができますが、4級しか登れない人が二段の課題を狙って設定することはできません。それは、二段の課題を偶然作ることができたとしても4級がギリギリ登れる人が二段の課題を試登することが不可能だからです。

 ルートセット中に試登して、それらの課題が面白いか面白くないか。課題の微調整をしながらルートを作り替えていくような作業をします。それらの微調整が全くない課題ばかりでは、面白い課題はなかなか作れないからだと思います。

 基本的には、課題作りというのはルートセッターの実力でギリギリ登れる課題よりちょっと下の課題まで作れると考えられます。なので、プライベートウォールを作ったときに、自分だけでルートセットをしたのであれば、自分が登れる課題のギリギリ下までしか設定できません。偶然の産物で、面白い課題もちょこちょこできるかもしれませんが、狙って自分が登れるちょっと上の課題というのがなかなかできないため、面白くないプライベートウォールができてしまい飽きてしまうのかもしれません。

 それら課題作りの点においては、商業用のボルダリングジムは高いジム利用料をとっているだけあって便利です。お客さんに飽きがこないように、様々なグレードの課題をとりそろえております。近頃のボルダリングジムだとウィークリー課題、マンスリー課題のように定期的に課題を更新して常にフレッシュな課題を提供しているジムもあります。

 そういう点から見れば、プライベートウォールを作るよりもお近くのボルダリングジムにお金を支払ったほうがコストパフォーマンスはよいかもしれません。また、自分で課題を作るタイプのプライベートウォールよりも、トレーニング用と割り切るならば、キャンパスボード、トレーニングボード、ムーンボードなどを作られたほうがよいかもしれません。

 確かに忙しいサラリーマンの方は、週3回定期的にボルダリングジムに通うことが困難な方もいらっしゃるでしょう。また、前述したように自分の住んでいる地域からボルダリングジムが遠くて定期的に通うのが困難な方もいらっしゃるでしょう。子どもとボルダリングジムに通いたいが、通っているボルダリングジムに子どもの利用制限があって満足に練習ができないなどの理由があるかもしれません。

 そういう方は、ボルダリングジムが必要ですし、また、どうしてもプライベートのクライミングウォールを自宅に作ってみたいという私のような変わった方もいらっしゃるでしょう。私の場合で大変恐縮なのですが、クライミングウォールを作るのは大変楽しいです。それだけやっても十分趣味として成り立つほどのロマンを持っていると思います。趣味の1ジャンルとして「プライベートウォール作製」というのがあってよいと思うほど楽しいものなのです。

 なので、どうしてもプライベートウォールを作りたいという人はじゃんじゃんプライベートのクライミングウォールを作って頂ければと思います。また、自分はプライベートウォールを作るのに興味はなくて、クライミングの実力UPのために作ろうと思っていたけどコストパフォーマンスが悪いなら普通にボルダリングジムの年間パスを買います。みたいな方がいらっしゃってもよいと思います。

3.基本的構造

 基本的な構造ですが、私が考えるとクライミングウォールというのは2種類あります。

仮設足場の単管パイプを使う方法

木材を使う方法

 大まかに単管パイプを使う方法と木材を使う方法の2種類があると私は考えております。溶接など特殊な技法をお持ちでしたら、金属のアングルを自分で切断、溶接してクライミングウォールを作ることもできると思いますが、私は溶接の技術を持たないので全く解説できません。

 単管パイプを使う方法

 基本的に建築工事や塗装工事などで建物の周囲に仮設の足場として設置される金属のパイプです。規格化されており、固定用のジョイント類が豊富で、お近くのホームセンター等でも入手しやすい利点があります。

 難点としては、仮設工事用なので強度というか頑丈に作ることが難しいです。元々が仮に建物の周りを覆って、作業が終わったら取り壊すという使い方を想定して作られている部材なので、仕方がない面があります。単管を使ってクライミングウォールを作る際は、どうしても仮設用の部材ゆえの細かい揺れに悩まされる場合があります。

 利点としては、様々なジョイントが売られているので、奇抜な形のクライミングウォールを作りやすい。特にすごく傾斜の強い壁も作ることが可能です。

 ちょっと以前に流行ったのですが、三角形の小さなパネルを多数利用して3Dな形でクライミングウォールを組み上げるのは単管パイプの方がやりやすいと思います。木材で組み上げるのと違い、自在クランプといって自由に角度を変更できるクランプがあるので有利です。

 仮設足場用の部材なので、解体がものすごく簡単です。当たり前といえば当たり前なのですが、仮設足場なので解体はクランプを解除するだけで簡単にできます。

 壁の形状をマメに変更したい方は単管パイプで作ったほうがよいでしょう。

 構造物が例えば鉄骨スレート造りでH鋼が露出している場合は、H鋼に噛ませる専用のジョイントが売っているので取り付けが簡単になります。

木材で作る場合

 木材で作る場合は、頑丈に揺れが全くないようなクライミングウォールには最適だと思います。構造物が木造である場合は、木材で組み上げたほうが楽にできる場合がほとんどです。木材と木材の組み合わせは一番相性がよく、ビス等で木造の構造物から簡単に支持がとれます。

 木材を選ぶ場合は、杉材、ベイマツ、ツーバイフォー材など様々な材料が考えられます。杉材の場合は安価ですが、安い部材だと乾燥したときに中央に割れが発生する場合が多く、反りや変形もしやすいです。

 ツーバイフォー材は、近所のホームセンター等で簡単に手に入り、杉材ほど割れないのでおススメです。

 頑丈に作りたいのであればベイマツ等の部材にすれば、微動だにしない頑丈なクライミングウォールが作れます。

 木材で組み上げる場合は、傾斜の強い壁、複雑な形状の壁は単管パイプに比べて難しいです。利点としては木材だと専用の高速カッター等がなくともノコギリでカットできます。通常は丸ノコ等でカットしますが、手ノコで時間はかかりますがカットできます。また、寸法が少し違った場合にカンナ、グラインダー、紙やすり等で微調整がしやすいです。

 他の構造体としては、鉄骨で作るなども考えられますが、プライベートウォールでそこまでやる例は少ないと思います。鉄骨屋さんに図面を提出して、ボルトで固定するような鉄骨を作ってもらってクライミングウォールを作る方法もあり、費用は高いですが地面にアンカーボルトを打ち込めば頑丈なクライミングウォールがどこでも作れます。

4.設計

 プライベートウォールについて、基本的なプランがまとまったら設計に入ります。

 やみくもに設計図なしで作ってもろくなクライミングウォールができないのは、素人でも分かると思います。設計図を作ることで部材の数、ホールドの数などが分かり、ある程度の見積もりができるようになります。

 設計図に関しては、プロの世界だとほぼ100%といっていいくらいCADが使われます。平面のCADが通常は使われますが、高価な3Dの描写ができるCADも使われています。高価なCADソフトウエアは、何十万円もしますし、プライベートでクライミングウォールを作られる方は一度か二度くらいしか工事をされないと思うのでそのような高価なソフトウエアは不必要です。

 無料のJW-CADのようなソフトウエアもありますが、使いこなせるようになるにはある程度の時間が必要です。1時間や2時間くらいの練習で自由自在に使いこなせるようなソフトではないような気がします。その辺の習熟度に関しては、人それぞれなのでしょうが、素人がいきなりCADをやって使いこなせないと考えたほうが賢明です。

 プロにCADの図面を頼む方法もあります。しかし、費用はかなり高いです。図面1枚で3万円とか普通にとられます。特に一級建築士など資格を持った方に頼んだ場合は図面1枚で3~5万円くらいが相場と聞いたことがあります。

 素人がCADのソフトを使わずに設計図を作る方法としてお薦めしているのが、紙CADです。100円均一ショップで売っている材料のみで簡単に作ることができます。

必要な材料

・厚紙(できれば方眼紙入り)5枚程度

・セロハンテープ

・カッターナイフまたはハサミ

 それらの材料を100円ショップやホームセンター、文房具屋さん等でお買い求めください。数百円で済むと思います。

 詳しいやり方は動画で説明致します。

壁の傾斜別の特徴など

・70~80度のスラブ

 スラブとは滑り台のような前傾していない壁です。子どもや初心者向けには力がなくとも登れるのでよいと思います。えぐいホールドの設定をすれば、上級者向けの課題も作れます。ワールドカップ等のコンペの動画を拝見しますと、この頃はスラブにハリボテなどを取り付けてその上をぴょんぴょん跳んでいるような画像も見受けられます。バランスやマントリングの技術をみるような課題もあります。スラブも奥が深いと言えば深いのではないかと思います。

気を付けたいのは、傾斜で緩すぎるとハンドホールドなしで何でも登れて糞つまらなくなります。逆に傾斜が強すぎると微妙にできるムーヴが単調になります。その絶妙な傾斜が何度なのか、私も断定できないのですが、絶妙に面白い傾斜の範囲に入っていることが重要かと思います。

あと、落ちるときにホールドで顔を打ったり、膝を打ったりします。スラブだから安全みたいな考え方は危険です。むしろ傾斜の強い壁の方が、落ちるときに壁に当たらないので安全ということも言えます。特にホールドのセットは何でも取り付けてよいわけではないので、落ちた時に体にホールドがぶつからない設定にしておくことを心がけましょう。

スラブですが、壁の裏側に結構大きなデッドスペースができてしまいます。通常は、横にドアを取り付けて、内部を使わないホールドやガラクタの物置として使ったりします。あと、工事に関してはパネルの取り付け時にローリングタワー、脚立等が使いづらく上に行くほど工事者の足場の確保が難しく工事はやや面倒な感じはします。

・90度(垂直)

垂壁と呼ばれる90度の壁です。部材、マット、必要なスペース等が最少になり、コストパフォーマンスは最もよいのではないかと思います。営業用のボルダリングジムならなるべく多い面積を90度の壁に使いたいところです。

 90度の壁は上級者でもウォームアップなどで使いたいですし、カチやスローパーを設置すると上級者も十分楽しめます。当然初心者も練習で普通に使います。

 傾斜の強い壁は、上級者専用になることが多いですが、90度の壁は上級者も初心者も使うので混雑していたような印象はあります。

 作り方としては最も簡単で、構造物から直接支持をとれば90度の壁が出来上がることがほとんどです。

 あと、構造物のゆがみ等で88度や87度程度の壁が出来上がってしまったことがありましたが、それはそれで絶妙に面白いです。90度ジャストでなくとも、絶妙に面白いのでその辺は自然に傾いていてもよいのかなと私は思います。仕事で請けた場合は、3度の傾きのミスは致命的なので、作り直しか補修ということになりますが。

・100~110度

 やや緩く前傾した壁です。ガバ系のホールドなら初心者も楽しめます。上級者もスローパーやカチなどで面白い課題を作れます。また屋外の岩場でもこれくらいの傾斜の課題はたくさんあって、慣れておきたい傾斜です。

 注意点としては、マットの劣化の仕方がいびつになります。落下するポイントがほぼ常に同じような場所になるので、あるポイントだけで急激にマットが劣化する感じになります。その辺だけは、注意しましょう。時々、中のウレタンをローテーションするとよいと思います。

・120~130度

初心者にはやや厳しくガバ系しか掴めないでしょう。上級者だと難しいホールドでも様々なムーヴを楽しめます。トレーニング用にもよい傾斜です。

スペースがなくて壁が一面しか設置できない、レベル的には中上級者という場合は、この角度くらいの壁を設置することをお薦めします。

・140~150度

この傾斜になりますと初心者は大きなガバでもつかんで登るのが精いっぱいになります。上級者もカチやスローパーを掴んでギリギリ登ることができます。上級者のトレーニングには最適な壁だと思います。

・160~170度

すごく強い傾斜の壁です。初心者にはもうへばりつくだけでやっとの領域です。上級者でもガバならムーヴをおこせますが、カチやスローパーだと保持するので精一杯なことが多いと思います。

トレーニングにはよいと思いますが、この傾斜の壁を設置するには部材がたくさん必要になり、マットもたくさん必要で、専有面積も大きくなります。その割には使う頻度としては、低くなるのでコストパフォーマンスとしては悪いです。あと、工事も90度の壁に比べたら途轍もなく大変になります。

あえて、この傾斜に憧れがあるなら設置されたらよいと思いますが、初心者さんはやめておいたほうが無難だと思います。

・180度

一般的にルーフと呼ばれる壁です。商業ボルダリングジムでよくお客様から「次はルーフを作って」と言われるものです。しかし、実際に作ってみた結果、持てるホールドはほぼほぼガバ系のみ。できるムーヴも意外に単調。ルーフの抜け口のムーヴは楽しいが、1回覚えてしまうとそれ以上の進化があまりない。

などの理由で、最初は盛り上がるものの飽きられてしまうのも早いのが、私の考えるルーフの特徴なのかなと思います。かなり偏った意見で申し訳ないです。

あと、近年のコンペの動画を見ている限りには、傾斜のとても強い壁の登場回数が少ないように思います。ルーフは観客から見やすい感じではないですし、素人が見てもルーフを登る難しさがあまり伝わらないように思います。ルーフよりもむしろスラブの課題の方が有名なコンペで選ばれているような気がします。その辺のコンペ課題の傾向などは流行り、廃りがありますのでどうとも言えない面があります。

自分の登りたい野外の岩の課題がルーフのもので、それを3年くらいかけて狙っているとかそういう理由ならルーフの設置もありかもしれません。専有面積、部材の費用が最大で、できるムーヴは特殊かつそんなに披露できる機会は少ない。つまりコストパフォーマンスは最も悪いです。しかし、ルーフの動きというのは、そういう練習をしないとできない面もありまして、上記の理由でルーフを排除するボルダリングジムは多いです。むしろ、ルーフこそプライベートウォールに必要という考え方も否定できません。

5.どのような場所に設置するか

プライベートウォールをどのような場所に設置するか。

 クライミングウォールを設置する場所については、様々な事例があります。まず、断っておきますが、日本には建築基準法など様々な法律があり、どこでもクライミングウォールを作ってよいというわけではありません。それらの法律は、大変複雑で私のような素人が語れるようなものではありませんので、建築士さんなど専門家に助言を求めてから作るようにしてください。

・新築の住宅に設置する場合

 念願のマイホームにクライミングウォールを作りたい!クライミングを趣味とする方からそういう夢はあるはずです。混雑などなく、自分の好きな時間に好きなだけ登ることができるプライベートウォールをマイホームに設置したい!と思われている方は多いと思います。

 注意点としては、建築基準法や確認申請など法律の制限を受ける場合があるので、その辺には注意しましょう。大工さん、工務店、建築士さんなどプロの助言は必ず受けるべき案件です。場合によっては、確認申請の検査が終わって、建物ができて落ち着いてから、クライミングウォールを設置したほうがよい場合もあるようです。役所に出す書類関係をそろえるのが非常に大変で、クライミングウォールが特殊すぎて説明に苦慮することが考えられます。その辺は必ずプロの方に相談されておいたほうがよいと思います。

 クライミング専用の部屋を作る方もいらっしゃると思います。クライミングが趣味というのであれば、思い切って30畳くらいの大きなウォールを作られた方も知っています。

 また、3Fに屋根裏部屋があって、そこに作られた方もいらっしゃいました。

 リビングの吹き抜け部分にクライミングウォールを設置する例もあるようです。ある程度の高さならばロープも必要でしょう。

 他には庭先に作る例、車庫に併設の例、離れのガレージに設置した例などを知っております。新築であれば、様々な場所に設置することができるでしょう。

・中古の住宅や賃貸の住宅に設置する

 賃貸の住宅ですと新築マイホームのように大がかりな構造物は設置できません。賃貸住宅だと退去時に原状回復する義務がありますので、大幅に建物を作り替えると原状回復時にものすごく費用がかかります。

 ビスなどを使えないようでしたら、ホームボルダー13などのような建物にビスなどで傷つけないタイプのキットを使うのも方法でしょう。また、自分でぶら下がり健康器などを改造してトレーニング用の小さな道具を作るのも考慮しましょう。

 ツーバイフォー材とコンパネで簡単にクライミングウォールは作れますので、そういうものを自作されてもよいかもしれません。工夫と日曜大工の能力次第だと思います。

・屋外(庭など)に設置する

 以前(1990年代)は、コンクリートの壁に直接ホールドを埋め込んだようなプライベートウォールなども散見されました。今はどちからというと前傾の壁が流行りなので、コンクリートのプライベートウォールは見かけなくなりました。

 工事のしやすさ、角度調整のしやすさからコンパネで、プライベートウォールを作ることが多いと思います。ただし、屋外にクライミングウォールを作る際に、コンパネで作ると雨風で劣化が早い場合があります。

 この場合に、屋外でも簡単な屋根があるかどうかでだいぶ変わってきます。簡単な屋根、例えば塩ビの波板やトタン屋根でもあって、日常的に雨が当たらない環境ですとコンパネでクライミングウォールを作っても比較的長く使うことができると思います。台風や横殴りの豪雨の際は雨が当たるかもしれないけど、普通の雨は当たらない環境くらいがよいです。

 逆に屋根がなくて、日常的に雨がふりこむ環境ですと、コンパネで作ったクライミングウォールはあっという間に劣化します。塗装をして防水しても爪付ナットの穴などからコンパネの内部に水が浸透して、内部の接着剤が劣化して、すぐにベコベコに劣化すると思います。

 完全に雨が当たる環境であれば、コンパネではなくFRPで壁を作るとかコンクリートで壁を作るなどがよいでしょう。ただし、それらの場合は素人が工事するにはかなり難しくてプロの方にお願いする形になろうかと思います。

あと、屋外にプライベートウォールを設置する場合に気を付けたいこととしては、ご近所さん対策です。オリンピック競技になってスポーツクライミングが市民権を得たとしても、地方だとまだまだ珍しいスポーツです。夜間などに騒ぎながら登っているとご近所さんから苦情がくる場合がありますので、注意しましょう。また、クライミングしているときにパネルをクライミングシューズで登る音、マットに着地をする音なども結構気になりますので、その辺も考慮されたほうがよいです。

また、高さ2~3メートル程度の壁なら問題ないですが、高さ5メートルくらいのガチの壁を作ってしまうと、お隣さんを上から覗き見るみたいに迷惑に感じられることもあるかもしれません。日照権の問題とかも起こるかもしれないので、その辺も注意しましょう。お隣さんの得体の知れない趣味と思われて、常に不快に思われるのもよくないので、できるならプライベートウォールは室内設置が無難だと私は思います。

・車庫に設置

 プライベートウォールを車庫の中に設置される場合は、不燃材をコンパネの上にはりつけるなどが必要になるかもしれません。消防の法律などに詳しい方に尋ねましょう。

・その他

 親族が空き倉庫を持っている。仲間と貸倉庫を借りるなど。

田舎のほうだと農業用の倉庫で使っていた倉庫があって、今は使っていなくてそこをクライミングウォールに改造するなども考えられます。なお、農業用のものに関しては、用途変更などの諸法律も関連するかもしれないので、その辺は専門家にちょっと聞いてくださいね。

 かなり広い倉庫だと様々な形状の壁が設置できて理想は膨らみます。なお、どの建物もクライミングウォールに改造できるわけではないので、注意しましょう。100平米以上の改築に関しては、用途変更が必要になったり、確認申請が必要になったりということがありますので、注意しましょう。それこそケースバイケースなので、専門家に聞かないと分からない点が多いです。

プライベートウォールを自作するかどうか?

 プライベートウォールの自作についてですが、日曜大工が得意な方、費用や時間についても余裕があって、工事中の事故でケガするリスクも負える方のみ挑戦しましょう。あとは、もともと大工や建築関係のスキルがある方は、比較的簡単にプライベートウォールの自作くらいできるでしょう。

 あまり大工仕事が得意でない方は、お近くの工務店、大工さんにクライミングウォールが作れないか聞いてみてください。

 クライミングウォールを専門にする業者も日本には何社かあります。見積もりをとられたら分かりますが、専門業者は出来栄えについてはすごくよいですが、金額もかなり高額になります。

 逆に普通の大工さんにWebの画像などを見せてクライミングウォールを作ってもらうこともできますが、施工実績がないととんでもなく変な壁ができてしまうこともあります。その辺は、ちょっとリスクがあるのではないかと思います。

 私も数々のクライミングウォールの施工経験があって、比較的安く壁を作ることができます。しかし、宮崎から出張してクライミングウォールを作るとなりますと、だいたいの場合は交通費、宿泊費などが高額になってしまいあまり安くはならないです。

 新築の住宅を建てられた場合は、その大工さんに壁のほうまでお願いするというのがよろしいかと思います。相場に関しては、かなり幅があります。私の知っている案件では、見積もりの金額は3倍近く開きがあったりしますので、どうとも言えません。

6.プライベートウォール作りに必要な道具


丸ノコ

電動の丸ノコが必要です。手ノコでも木材の切断はできますが、コンパネを90cm連続で切るなどは手ノコだと大変です。丸ノコであれば短い時間で切断が可能です。

DIY用の安いものもありますが、耐久性、信頼性では劣ります。マキタ等のしっかりしたメーカーのものがよいと思います。

歯のサイズが165mmと190mmのものがあります。どちらでもよいと思いますが、私はなぜか190mmのモデルを使っています。プロ仕様のものとDIY仕様のものがありますが、マキタ等のメーカーならDIY仕様のもので十分でしょう。

あとこだわってほしいのが替え刃で、これはちゃんとしたものを買ったほうがよいです。黒っぽいやつは切れ味が違います。軽い力で真っ直ぐ切れます。

あと、爪付きやビスなどを切断すると赤い火花が出て、あっという間に切れ味が落ちます。2000円もした高級な歯がダメになるあの残念さというと涙がでそうです。

付属のものとしては、スライド定規があればなおよいです。

気を付ける点は、丸ノコの事故は致命的に大きな事故になります。自分の指等を絶対に切断しないように気をつけねばなりません。今後、クライミングが満足にできなくなります。クライミングを楽しもうとプライベートウォールを作ろうとしたのに、自分の指を切り落としてクライミングができなくなったのでは、本当に不幸ですから。

絶対に知っておくべきことは、丸ノコはキックバックといって急に自分の方向へ跳ね返ることがあります。そのキックバックする方向に自分の体があると急にキックバックしてきた丸ノコで自分の体を切りつけて大事故になるのではないかと思います。とにかく気を付けて丸ノコは使うことです。


ドリル

コンパネに穴をあけるときに使います。穴の径は12ミリを使います。12ミリで穴をあけてM10サイズの爪付きナットを打ち込みます。爪付きナットの金属の厚みが約1ミリずつで2ミリの厚さが加わるので12ミリサイズの径がよいと思います。もし10ミリで穴あけするとM10サイズの爪付きナットを叩き込むのは可能ですが、穴がかなりキツキツだと思います。

実際のところ、30枚、40枚と大量のパネルに穴あけするならドリルは必要ですが、普通のプライベートウォールだとパネルが5枚以内のことが多そうなので、電動ドリルは必要ないかもしれません。

インパクトドライバーに12ミリの木工ドリルを取り付ければ代用できます。その代わり、インパクトドライバーのバッテリーはもちが悪くなります。


インパクトドライバー

これは高いですが、あったほうがよいです。

ドライバードリルとインパクトドライバーの違いですが、形は似ていますがインパクトドライバーは「ガ、ガ、ガ、ガ、ガ・・・」と音がします。内部で打撃して、錆びたネジ等でも回すことができるのです。この打撃、インパクトがないとホールドのボルトを締めることができません。

トルクがいろいろあって、145N.mみたいに表示されています。物理の用語か何かだと思うのですが、全然詳しくなくて申し訳ないです。よく分からなくてもこの数字が多いほど打撃力が強いのは間違いないと思います。この数値が140N.mもあれば、プライベートウォール作りでは合格かと思います。逆に120N.mもいかないようなものはあまり使えないのでおすすめしないです。ホールドの取り付け等でやや不安があります。

いろいろ買って私が試した結果ですが、14.4ボルトの仕様のマキタ製が一番費用対効果が高かったです。3万円近くしますが、バッテリーのもちがよくて、軽くて使いやすいです。職人はほぼマキタ一択みたいです。ルートセッターさんもマキタのインパクトドライバーの使用率は高いですね。

他にはバッテリーではなく、コードタイプのインパクトドライバーはコードがかなり邪魔になりますが、安くてトルクが強いのでよいです。とにかくコードが邪魔なのは仕方ないですが、そんなに広くないプライベートウォールならコードもとりまわせるので一応考慮されたらよいと思います。


グラインダー

壁の角を丸めたり、噛みこんだネジを切断したときなどに使います。いろいろ使えますが、結構危険な工具なので、使う際には十分注意しましょう。

手もちの紙やすり等でも代用できます。噛みこんだネジも金切用の手ノコでも切れます。ある程度以上の大きさのプライベートウォールならあったほうがよい程度です。


脚立

工具ではないけれど、アルミ脚立があったほうがよいです。ホームセンターで売っているものでよいです。ホールド替え等でも使うと思います。